Saturday, November 12, 2011

「サンマの開き」というだんご


                                                                                                      天野啓子  




床の間から対角線にある壁に­「サンマの開き」と呼んでいるアジの開きだろうと思われるゴッホのような油絵が掛かっている。この絵は近所に住んでいる人が描いたものでその画家が偶然に私と同じクラスの鈴木かずこちゃんの大きなお兄さんでその隣の家が親戚にあたり、そこがおだんご屋さんであんこを作っていて季節のお菓子を作ってもらうのにちょうどいいのでたずねたら、そんな上等なところではないからとけんもほろろに断るので研究すればおだんご屋だって季節のお菓子くらい作れるのにと母は残念そうに言った。とにかくそういう事情でおだんご屋が他を紹介してくれて季節のお菓子をその知り合いか遠い親戚かで作ってもらってそれを受け取りに鈴木さんちへ行ってサンマの絵に出くわしたという話。でかした!と母はサンマを見てこぶしを手の平で打って意気投合してその場で絵をゆずってもらってほんとはお茶室にこうゆうもん掛けるべきじゃないんだけど、とかいいながら、ここがちょうどいいわ、と言ってお茶室に入ったところの壁に掛けたというのが事のてん末。その絵は印象派のロマンと落語の庶民性とがかけあわされて三乗になったような魅力あふれる絵でうちを訪れる人は畳に手をついてお辞儀して右足をお茶室に踏み入れるとしばし直立不動。それからアハハと笑う。

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